心の遭難

100分で名著で「中井久夫さん」を取り上げている。

私の持っている本は中井さんの翻訳した『心的外傷と回復』 。
以前から注目していたが、今年の夏に亡くなった。
斉藤環さんは「ケアの思想」の先鞭者だと言われていた。

中井さんは喩えの名人で、登山の喩えがわかりやすい。

自由度が無くなり何でも必然に思えてくると心のゆとりが無くなり遭難と同じになる。これを「心の遭難」と喩える。
そして、治療は山岳救助であり、回復は山を下りること。

S親和者は鋭い感受性(微分的認知)、かすかな兆候を感じるセンサーを持っている。
狩猟採集時代にはS親和者は目の前で起こっていることを想像する力(願望思考は想像力の起源)を発揮し活躍していた。その時代は現在中心的で主観的時間(カイロス的=人間的)に生きていた。
農耕社会になって、共同作業や定期的な作業に従事するようになると、未来志向で物理的時間(クロノス的時間)が主流となり、権力装置(神をも必要とする)が必要となり、ルールや秩序に従う「強迫性」が心を占めるようになる。
工業社会では、さらに教育が強迫性に無理やりなじませようとする過程(手段)となってくる。中井さんは「教育が強迫性という緊縛衣を着せる働きをしている」と喩えている。
そして、社会の「強迫性」が様々な精神の病を生み出す。

「病」ととらえるより「能力」ととらえる。
「キュア(治療)」よりも「ケア(看護)」の方が大きなちからを発揮する。