「脳の話」

昔、時実利彦氏の「脳の話」という本を読んだ覚えがある。
大脳前頭葉の働きの大事さを強調していたと思うが、「パブロフの犬の話」はこの本で知ったような気がする。
根が単純なので、ここから入力と出力のブラックボックスの概念に行くのは自然だった。ところが、人間はそんな機械的と同じような脳を持っていないということに気がついて、ウィーナーの「人間機械論」を読み直してみると、フィードバックという概念が書いてあった。フィードバックはIT でも行っているので、もっと何かがあるはずだと思っていたら、オートポイエーシスという概念を知った。出力が同時に入力にもなるということ。でも、あまりわからなかった。
そこからプロジェクションやモデル思考も知ったが、先日知った「モデルベースシステム」では、認知(脳)科学とAIとが密接な関係があることがわかった。

AIは脳をモデルとしているが、
逆に「AIを用いて脳のはたらきを探る」ということだ。例えば、

A.小脳は入出力関係の「教師あり学習」 定型行動
B.大脳基底核は報酬を予測する「強化学習」 条件反射
C.大脳皮質は状態表現(感覚表現、運動表現)の学習をする「教師なし学習

これらは様々な数式モデルがつくられており、AIではすでに使われている。
むしろ脳のはたらきをAIのする学習でイメージしている逆転現象だ。

小脳は目標出力を予測する“教師あり学習”に特化した回路で、自分の身体とか外界の内部モデルを獲得するために有効だ。大脳基底核は、黒質からのドーパミン性信号による“報酬予測に基づく強化学習”に特化している。大脳皮質は、特定の出力を指定する学習信号はなくても、入力の統計的な構造を捉える状態表現の“教師なし学習”に使われていると考えられる」

学習においても、かっては条件反射などのA,Bを鍛えたり、せいぜい最近はCを求める表現学習があるくらい。こうやって見るとやってきたことの意味がわかる。
それでモデルベースシステムだが、「脳はこれらを組み合わせるシステムとなっている」という仮説。

たとえば小脳で次の状態を予測する内部モデルが獲得されていれば、候補となる行動を大脳皮質に作業記憶として保持しておき、その結果得られるべき状態を小脳の内部モデルで予測し、その良し悪しを大脳基底核の価値関数で評価して、その評価が良ければ実行に移し、良くなければ別の候補を考える、という形で意思決定や行動選択が取れるだろう

ゲームをやってもらって脳の活動を見ると、それぞれの部位が発火して上の仮説を裏付けているという。さらに、この仮説を用いて新しいAIを構成することも出来る。
条件反射の脳の研究からAIを用いた脳の研究に進化していると思うと、この70年はすごい進歩だと感じる。

ふと感じたのは、このシステムを鍛えるのは「勉強」することではなく「あそび」をすることしかないような気がする。
もっとも学習することがあそびになれば良いのだけど。