「色は空 空は色との 時なき世へ」
これは、十二代目市川團十郎の辞世の句である。
行年66歳という若さであった。
たまたまニュースを見ていたら、紹介された辞世の句が心にとまった。
アナウンサーは、「いろはそら そらはいろ」と読んでいた。
もちろん、色即是空 空即是色のことであろう。
真言宗は般若心経を読む。
だから、この色即是空、空即是色の句が
大きな意味を持っていたのだろうと推察される。
歌舞伎はまさに色即是空、空即是色である。
私たちは、色(=現象)は空であるという方が強く心に残るが
これは対句で、空即是色の方を忘れてしまう。
空だからこそ、さまざまな現象を自在に生み出すのだ。
歌舞伎の演技(縁起)もまさにそうであろう。
空だからこそ現実にはありえない場面を演ずることができるのだ。
このように、この辞世の句の前半の句はなんとなくわかるが、
最後の「時なき世へ」はどう読むのだろうか。
色は空 空は色という 時間のない世へ旅立とうということであろうか。
浄土はもちろん色即是空であり、空即是色である。
そして、時間が無い。
彼が、なぜ時間のことを入れたのかはわからない。
が、時間がないということは、永遠であり、死も無いということを示している。
だから、そこには懐かしい人もいるのだ。