二利双行

「二利双行にご精励の御事と拝察申し上げます」
と、手紙に書き出すことがある。
 
この二利とは、自利利他であり、自利行と利他行を合わせて双行という。
大乗仏教の行には必ず自利と利他を伴う。
回向も同様に考えられる。
「回事向理」
「回因向果」
「回自向他」
この最後の回向が「自らを回して他に向ける」という利他行をさす。
 
この場合、自利と利他の主語は私である。
「私が自分のために」と「私が他人のために」と普通は考える。
しかし、よくみると自利だったら他利の方が対称的で良いのではないか。
 
それに注目したのが曇鸞大師。
そこには「他利」でなく「利他」とするわけが書かれていた。
これは「他を利する」と「他が利する」と読める。
すると、主語は何か。
曇鸞大師は、
「もし、仏よりしていわば、よろしく利他というべし。衆生よりしていはば、よろしく他利といふべし。今まさに仏力を談ぜんとす、このゆえに利他をもってこれをいふ。」
 
と、仏が主語であったことを述べられる。
利他は「仏が他を利する」。他利は「私を他(仏)が利する」という意味になる。
曇鸞さんは、仏の側に立ち、利他を使うことを言われた。
 
そうすれば、自利も同じではないか。
自利も仏が主語ではないかと考えられたのが親鸞さんである。
自利の行も仏の働きで行われる。
 
とすると、「二利双行にご精励」の主語は仏である。
仏が働きかけ、私が行っている行なのである。